去る11月19日、講師に書道家の渡辺墨仙先生を迎え、第2回和紙文化講演会が富士宮市立中央図書館で行われました。当日は台風のような酷い状況で、参加する人が少ないのではと、心配されましたが、先生のお弟子さんや駿河半紙技術研究会の会員の方が多数参加され、会場は満員の盛況でした。また、会場には先生の作品が展示され、その多様な作品にはとても驚きました。
私は、書道を習っているので、今回の講演会にはとても興味がありました。先生の話を拝聴するのは今回が初めてでしたが、先生の話はウイットに富み、ところどころにダジャレなども挟み、会場は笑いが絶えませんでした。もう少し話が聞きたいと思うほど、1時間が短く感じられる素敵な講演でした。内容は、まず、先生の生い立ち、書家になった経緯、現在の活動等の話があり、次に、作品作りの考え方や和紙に対する思いなどの話がありました。特に私が感心したのは、作品作りは1枚目で仕上げるというところです。もし、書いたものが気に入らない場合は、内容を変えたり、紙を変えたり、レイアウトを変えて仕上げていくそうです。私の書道の先生も日頃から、作品はほとんど1枚目で仕上げると言っています。もちろん私にはそんなことできませんが、これはやはり、先生の話の中にもあったように、がむしゃらに書き込んだ時期があったからだと思います。今更ながら、文武の道を極めるのは鍛練こそが大事ということを再認識しました。
第2部は、席上揮毫(きごう)が行われました。私は書道の先生以外の先生がリアルに書くのを見るのは初めてでした。先生のスムーズな筆運びと切れのある「かな」は驚愕でした。私も「かな」を習っていますが、とてもあのように淀みなく筆を動かすことはできません。先生の書かれる姿を見て思い出したことがありました。それは最近読んだ本(「ことばへの旅」 森本哲郎 著)の巻頭に書かれた、夏目漱石の「夢十夜」という小品の記述です。金剛力士立像で有名な運慶が、無造作に仁王を刻んでいるのを見ていた男に、隣の男が「あれは、木の中に埋まっているものを、ノミと槌で掘り返しているのだ。土の中から石を掘り出すようなものだから、間違うはずがない。」と、言います。それなら自分にもできそうだと思った男は、何本も薪を彫ってみますが、いっこうに仁王はあらわれなかったそうです。
私は先生にも運慶と同じように、筆を運ぶべき道筋が見えるのではないかと思います。そして、このような能力を得るには、やはり鍛練しかないのではと強く感じました。
尾崎 政志