皮は紙を漉くための大事な原料になります。


「あれが楮の原木だ。刈り取ったら90cm
くらいに切りそろえて、釜で蒸して、
皮を剥ぎ取る。それが黒皮だ。」

「それが、紙すきの原料になるんですね。」

「簡単に言えばそうだね。でも普通は黒皮のま
ま使う事はあまりないから、白皮にする
作業が必要になる。
ただし、うちの自家栽培楮の紙は、
黒皮から未晒の紙をつくるんだけど
それは特殊だから、一般的にはまあ、
白皮に するよね。」
楮の皮を剥いでいるところです。

「どうやって黒皮から白皮にするんですか。」


「木芯から剥ぎ取った皮は、一番芯に近い部分の白皮の上に
あま皮と黒皮がついている。
その黒皮とあま皮をナイフや道具で削り取ってにさらして白くする。
そうやって出来たのが白皮だ。

この白皮も手間の掛け方で本晒し、未晒上等、未晒並、なんて
いくつか種類があって、うちではできるだけあま皮が残っていて、
川であまり晒さない原料を使っている。

三椏では通称、”ボテ”って呼ばれるヤツだね。
これは繊維以外のものを多く含んでいるからかびやすくって保存がムズカシイし、歩留りも悪 いけどね・・・。」
黒皮

「その・・・
 ボテを使うのは、何か理由があるんですか?」


「理由はある。つまり自分が考える良い紙は木 皮の要分をいかに紙に残すかっていう事なんだ。
紙は繊維が絡まり合って出来ているんだけど、 木の皮の繊維だけではなく、その他のエキスっ ていうのかな・・・をいかに残すかで、たとえ ば墨の色が良く出たりするんだよ。

もっとも用途によるわけでけどね。
うちの場合、主用途が書道用紙、版画用紙、画 材用紙なわけだから、墨の色、にじみ具合、顔 料の付き具合が、いかに良いかを考えて紙を 作っているわけだ。

しじり(黒皮を白くする作業です。)

だから、たとえば障子紙をつくるのなら、 いかに 白くて丈夫な紙をつくるかが目標になるだろうし、 インテリア用の紙を作るなら、いかに貼りやすく見た目も変化がある美しい紙を つくるかが大切になるんだと思うよ。」

「ひとくちに皮といっても、
いろいろあるんですね・・・。」


「うん。あと自分の目標のひとつとして、永久保 存に耐えられるような良質な紙をつくる、 というのがあるんだけど、この場合薬品は出来るだけ使わないことが大切だ。



うちの自家栽培楮を使った紙黒皮のまま煮て未晒の紙をつくるけど、
普通、黒皮から煮るのは”丸だき”といって、苛性ソーダで煮て、
その後、薬品漂白をして白い原料をつくる。

これだと、繊維がかなり痛んでぱさぱさになるんだ。その点、手間はかかるけど、
うちでやってる黒皮から煮る方法は繊維を痛めないし、他の要分も多く含んでいるから
純粋で光沢のある楮の紙が出来る。」

「和紙の原料としては、楮や三椏以外になにがあるんですか。」

「あとは雁皮。この3つが代表的な原料で、他には麻とか竹とかあるけど、それは特別かな。」

「雁皮も楮や三椏のように蒸らして皮を剥ぐんですか?」

「いやそもそも雁皮は他の2つと違って、栽培できないから野生のものを取るんだけど生のまま
皮を取るんだよ。」

「生のままですか。」

「うん。だから蒸らさないせいか、雁皮はにおいがすごい。青っぽいっていうか、ムッとするような
臭いがするな。」

「雁皮っていうのは扱ってる紙漉さんが少ないような気がするんですが、何ででしょう。」

「一言でいえばムズカシイからかな?紙を漉くのもムズカシイし、煮熟、プレス、紙貼りどれを
とっても気を使う。だけど、雁皮の紙は何ともいえない艶があって、すごくきれいだね。
墨の色が何とも鮮やかに出る。かな書によく使われるかな。」

「ふうん・・・。雁皮ってすごいんですね。楮や三椏とは格が違うのかな。」

「いや、そんなことはないよ。それぞれ良い所があるよ。どれが一番なんて事じゃ言えないと思うね。
つまりは用途だよ。なにに使うか、どう使うか、それに適した原料は何かっていうことだろ。
楮は繊維が太くて長い。それが良く絡み合って紙になるから、薄くてもすごく丈夫な紙が出来る。

だから、くしゃくしゃに揉みほぐして、衣服に仕立てることも出来るんだ。他の原料じゃ
こんな事は出来ない。」

「楮には楮の特徴があるっていうことですね。」

「そう。三椏はお札の原料にもなっているように印刷がきれいに出る。にじみが少ないから
便箋なんかにも向いているんだ。」

「それぞれの原料を把握していないとだめなんですね。」

「まあね。細かくいえば楮といっても南の楮と北の楮じゃずいぶんと質が違うんだよ。あとは、
同じ種類のものでも移植した土地によって、変わってくるからね。」

「なんだか分からなくなっちゃいますね。」

「そんなことはないさ。さっき用途によって原料を決めるって言ったけど実はその逆もあるんだよ。
その原料の特徴を生かしてやる紙づくりをするって事かな。今は国内産の原料より輸入の、中国や韓国、
フィリピンなどの原料も多くて、なんか輸入ものは国産のものより質が悪いって言われるようだけど、
それは、国産原料の代理として使おうとするからで、外国産は外国産として認めてやればいいと思う。

まあ、だいたい輸入ものは国産に比べると繊維が荒いんだけど、その特徴を生かしてやれば、
いろいろな紙が出来ると思うよ。
そうそう、染なんかすると輸入ものの方が色が鮮やかに染まったりするしね。」
和紙に関する本を読むのとは、ずいぶん違う話だと思った。
どんな事でもそうだろうけど、やっぱり、奥が深いんだな・・・。
次は、やっと原料を煮る煮熟の作業になる。